年金は結局早く受け取った方がお得なのか?

「人生100年時代」。これは英国ロンドンビジネススクール教授のリンダ・グラットン氏が長寿時代の生き方を説いた著書『LIFE SHIFT(ライフ・シフト)』で提言した言葉です。寿命が延びて100歳を超えるようになれば、これまでの80歳程度のライフコースを見直す必要があると語っています。

そのため、年金においても100歳まで長生きする可能性も考慮して、受け取りを計画する必要があります。そのために、できるだけ受け取りを先延ばしにし、少しでも受給額を増やした方がお得と考える人も多いかもしれません。政府も遅らせれば遅らせるだけ得かのように報道されていますが、果たしてそれが正解なのでしょうか。

老齢基礎年金

老齢基礎年金は、国民年金の加入者であった方の老後の保障として給付され、65歳になった時に支給されます。

老齢基礎年金は保険料納付済み期間(厚生年金保険や共済組合の加入期間を含む)と保険料免除期間などを合算した資格期間が、10年以上ある場合に、終身にわたって受けとることができます。

年金を受け取るために必要な資格期間

⑴国民年金を納めた期間

⑵国民年金保険料の免除、学生納付特例等の納付猶予を受けた期間(一部免除の期間は、減額された保険料を納めた期間であること)

⑶昭和36年4月以降の厚生年金保険の被保険者および共済組合の組合員であった期間

⑷第3号被保険者であった期間※

⑸国民年金に任意加入できる方が任意加入していな方期間(合算対象期間)など

資格期間は⑴から⑸の合算が10年以上です。

※「第3号被保険者であった期間」とは厚生年金保険や共済組合等の加入者(第2号被保険者:原則として65歳未満)に扶養されていた配偶者で20歳以上60歳未満の期間(昭和61年4月以降の期間に限る)です。

老齢基礎年金の年金額

20歳から60歳になるまでの40年間の保険料をすべて納めると、満額の老齢基礎年金を受け取ることができます。

年金額(満額) =年額781,700円(月額65,141円)

老齢厚生年金

老齢厚生年金は、厚生年金保険の加入者であった方の老後の保障として給付され、65歳になったときに、基礎年金に上乗せする形で支給されます。ただし、当分の間は、下記の受給資格を満たしていれば、65歳になるまで「特別支給の老齢厚生年金」を受け取ることができます。また昭和28年(女性は昭和33年)4月2日以降に生まれた方は、生年月日に応じて受給開始年齢が61歳以降になりますが、60歳から受給開始年齢の前月まで請求することにより、「繰上げ受給の老齢厚生年金」を受け取ることができます。

特別支給の老齢厚生年金

特別支給の老齢厚生年金とは60歳から65歳になるまでの老齢厚生年金のことです。受給開始年齢は生年月日に応じて異なります。また、受給開始年齢前に請求して受け取る年金を「繰上げ受給の老齢厚生年金」といいます。

「特別支給の老齢厚生年金」を受け取るためには、以下のすべての条件を満たしていることが必要です。

①老齢基礎年金を受け取るために必要な資格期間を満たしていること。

②厚生年金保険の加入期間が1年以上あること。

③受給開始年齢に達していること。

特別支給の老齢厚生年金の受給開始年齢

昭和16年(女性は昭和21年)4月2日以降に生まれた方は、60歳から65歳になるまでの間、生年月日に応じて、受給開始年齢が引き上げられます。

※出所 日本年金機構 特別支給の老齢厚生年金

※年金制度については日本年金機構のHPに詳しく説明があります。

年金の繰上げ受給

年金は、老齢基礎年金も老齢厚生年金も「繰り上げ受給」も可能です。

通常は65歳から受け取れるものを、早め(60歳~64歳)に受け取ることを「繰り上げ受給」と言います。

「0.5%×繰り上げ月数」という減額率によって、年金受給額が減額されます。受給開始年齢を60歳に繰り上げるとすると、30%(=0.5%×60ヵ月)の減額です。2022年4月1日以降は、減額率が1ヵ月当たり0.4%に変更される予定です。

年金の繰り下げ受給

逆に、年金の受け取りを遅めることを「繰り下げ受給」といいます。繰り下げ受給は、66~70歳の間に請求し、1ヵ月単位で繰り下げることができます。

遅らせるごとに年金受給額が増額され、増額率は「0.7%×繰り下げ月数」です。たとえば、受給年齢を70歳に繰り下げた場合は42%(=0.7%×60ヵ月)増額されます。2022年4月からは75歳まで繰り下げることができるようになります。増額率は0.7%で変わらないので、75歳まで繰り下げると年金額は84%増額されます。

年金は何歳から受け取るべきなのか


2022年4月1日以降は、繰り上げ受給した場合の減額率が1ヵ月当たり0.4%に変更される予定です。仮に60歳から繰上げ受給をした場合、年間4.8%減額されることになり、60歳から20年以上(100%÷4.8%=20.8)、つまり80歳以降も生存の場合には繰り上げ受給を「しない」ほうがお得ということになります。

一方、繰り下げをした場合、1ヵ月繰り下げるごとに0.7%増額されるため、年間8.4%増額されることになります。100%÷8.4%=11.9なので、11年以上生存すると得になります。
そのため、81歳以降も生存の場合には、繰り下げ受給を「する」ほうがお得です。

では、ここで日本人の平均余命を見てみましょう。

厚生労働省のデータによると令和元年の60歳の平均余命は、男性が23.97年、女性は29.17年です。このデータを見ると一般的には繰り下げ受給をした方が得をする人が多いと言えます。

しかし、人の寿命は誰にも分りません。

FPとしての私の考えは、例えば60歳以降も働いて十分な所得がある場合など、年金を受け取らなくても毎年安定した収入がある場合は、繰り下げ受給をしても良いと思います。

一方で、安定した収入がなく年金をあてにしないと生活が厳しい場合は、繰り上げ受給をして少しでも安定した生活を送る方が大切だと思います。それと同時に、収入や資産を増やすことも大切です。雇用延長や、アルバイト等をして年金+αの収入を作ること。いまある金融資産を少しでも運用し、長生きリスクに備えていくことが重要です。